ルノワール「アントニーおばさんの宿屋」 その①

コーヒーの出てくる絵画の話、今回はピエール・オーギュスト・ルノワール(1841-1919)の絵を採りあげます。


作品をご覧ください。日本では「アントニーおばさんの宿屋」(1866年制作)と呼ばれているものです。3人の男たちが食事を終えて談笑しており、そのテーブルをウェイトレスさんが片付けているところです。ウェイトレスの名前はナナさんだとわかっています。(ちなみにプードル犬の名前はトト君です。)

食べ残しのパンやお皿とともに、飲み終わったコーヒーカップをかさねている様子が描かれています。テーブルに付いている中折れ帽の男は、指に煙草をはさんでおり、向いに座っている男はコップに残ったワインをもっと飲もうとしているようです。男たちが楽しそうにおしゃべりをしているのに比べ、ナナさんの顔は少し曇っているように見えます。ワインの入ったコップを片付けようとして、テーブルの男に「まだ飲んでるんだよ」と文句を言われたのではないか、と私は妄想しています。ナナさんは、やれやれ酔っ払いは困るわ、コーヒーの後にまたお酒、とちょっと辟易しているのかもしれません。よく見ると、この絵にはもう一人、壁側に向かって立っている婦人の姿が描かれています。後姿の一部しか見えないのですが、この婦人がこの宿屋のオーナーのアントニーおばさんです。
原題はフランス語で、「Le cabaret de la Mère Anthony à Bourron-Marlotte」、意訳するとブーロン・マルロット村でアントニー・ママがやっている宿屋の酒場、という意味です。



絵にお詳しい方は、いつも目にしている典型的なルノワール作品とは少し雰囲気が違うな、と感じられるかもしれません。
この絵を描いた時、ルノワールは弱冠25歳。この2年前にパリの芸術アカデミーの公式展覧会、通称「サロン」に「エスメラルダ」と題した油彩画が初入選し、画家としてのキャリアを始めたばかりです。まだ、のちの、ルノワールらしい、光と風のあふれる画面や、大人の女性や少女の美しさを華やかにとらえた絵ではありません。

ただ、この絵にはルノワールの青春時代が活写されているのです。今回の連載は、それについて少しご説明いたしましょう。



次回に続きます。


①1866アントニーおばさんの宿屋


















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ジャック・プレヴェール その⑤

ジャック・プレヴェール⑤です。最終回。



ジャック・プレヴェールは、戦争が終わって、ジャニーヌ・ロリスと再婚し、一女をもうけました。その娘に向かって、童話を書き始め、童話作家としての顔を持つようになります。

彼は、戦後多くの本を出版しましたが、映画人としての活動は徐々に下火になっていきます。晩年は、児童文学や美術についての本を出版することが活動のメインとなっていきます。

戦後も何本かの脚本や台詞作りに加わっていますが、盟友だったマルセル・カルネ監督が撮っていたような物語重視のドラマ性の高い劇映画は、戦後台頭してきたジャン・リュック・ゴダールや、フランソワ・トリュフォーら、「ヌーヴェル・ヴァーグ」と呼ばれる、アドリブ感に満ち、ドキュメンタリーの手法を取り入れた新しい映画群に押されていきました。
また、一時一世を風靡した「フィルム・ノワール」と呼ばれる、一群のフランス製ギャング映画も、ジャック・プレヴェールの得意とする分野ではありませんでした。

アニメ映画の脚本なども手がけましたが、「天井桟敷の人々」のような評価には至りませんでした。
映画そのものの在り方が、変わってしまったのだろうと思います。実は、本当に古びることなく、次代に残っていく映画は、マルセル・カルネやジャン・ルノワールらとともに、ジャック・プレヴェールが作っていたような、古いタイプの劇映画だったのですが。


ジャック・プレヴェールは、1977年、ノルマンディーの、オモンヴィル・ラ・プティットにある自宅で、肺癌により死去しました。
プレヴェールの6歳年下だったマルセル・カルネは、ニューヨークタイムスに寄せた弔意記事の中で、「ジャックは、フランス映画における唯一無二の詩人(the one and only poet of French cinema)だった」「彼のユーモアと詩心は、凡庸な事柄を、芸術の頂点へと引き上げるものだった。そしてそれは大衆の魂に響くものだった」と述べています。


映画や詩やシャンソンの世界で、ジャック・プレヴェールが成し遂げてきた事は、一度それに触れた私たち大衆の心の中から決して失われることはありません。文化や芸術にメインもサブもありません。
難解なところのまったく無い、プレヴェールの幾多の作品は今後も繰り返し私たちに感動を与え続けてくれるのだと思います。



70パリ・カフェ写真












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ジャック・プレヴェール その④

ジャック・プレヴェール④です。


バチストとギャランスの告白シーンの台詞です。
バチストは、ギャランスを荒くれ男の狼藉から救い出して、2人は外に出ます。


「案外、強いのね」
「貴方は僕が夢の中で待っていた人だ。僕は今夜を忘れない。その瞳の光を・・・」 
「光? そんなのどこにもあるわ。メニルモンタンだって輝いてる」 (遠くにメニルモンタンの街の灯が見える)
「僕の命は貴方だ・・・名前は?」
「ギャランス」
「・・・ギャランス。愛しています。貴方も僕を愛してる?」
「子供みたいね、そんな愛し方は夢の中よ」
「夢も現実も同じだ。だから生きてゆくんだ」
「・・・好きよ」 (そして2人の接吻。そしてギャランスは呟く)
「・・・恋なんて簡単ね」



愛だの恋だの、日本語でそう言ってしまうと、何だかとてつもなく恥ずかしくて、そんな台詞が出てくる脚本なんて日本では書けたものではありません。そういった意味では、日本人の映画脚本家は少し可哀そうです。
でも、こんな台詞を書ける人は、恋愛達人のフランス人だって、実はそうはいないと思います。こういう台詞こそが、映画であり、洋画であって、そして昔の日本人が憧れていたフランスそのものです。

この出会いから、映画のラストに向かって2人が巻き込まれていく壮絶な人生を観た後だからこそ言えるのかもしれませんが、これらの台詞はずっと心に残っています。
それこそが、ジャック・プレヴェールの創り出した物語だ、ということなのです。



次回に続きます。次回最終回。


Les Enfants du Pradisポスター







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ジャック・プレヴェール その③

ジャック・プレヴェール③です。

ジャック・プレヴェールは、詩人であり、優れたシャンソンの作詞家であるとともに、映画の脚本家として歴史に名を残した映画人です。

20代の頃、プレヴェールは、親友であったイヴ・タンギー(後に超現実主義派の画家として有名に)、編集者だったマルセル・デュアメルと3人で、モンパルナスに近いアパートで共同生活をしながら、映画製作の修行をしていました。そして、その頃知り合った、演劇人であり、天才パントマイマーであったジャン・ルイ・バローらと組んで、芝居の戯曲を書いて世に出てきました。その当時の交友関係の中には、シュールレアリズムの旗手となっていくアンドレ・ブルトンやレーモン・クノーらがいます。

この演劇活動の中から、徐々に映画の世界へと活躍を広げ、マルセル・カルネ、ジャン・ルノワール、ジャン・グレミヨンといったフランス映画の黄金期を作り上げた監督達と仕事を共にするようになります。
ジャック・プレヴェールは、本質的に「詩人」であり、また、そのためお芝居の台詞がとてつもなく美しく綴れる才能に満ちていたのです。彼が脚本、もしくは台詞作りに携わった映画は約20本あります。
その中でも、代表作は「天井桟敷の人々」(1945年公開、マルセル・カルネ監督)です。
「天井桟敷の人々」は、映画史上ベストテンを募れば、必ず上位に入ってくるような歴史的名作です。しかも、この作品は、ナチスドイツに占領されていた頃の、ヴィシー傀儡政権下の1943年から1945年に、16億円という巨額の製作費を投じて作られた大作映画です。2部構成で、途中にインターミッションが入る、190分間に及ぶ長編映画です。当時日本も戦争の真っさ中にありますが、彼我の差を痛感せざるをえません。

ここで、予備知識として知っておいた方がよいのは、監督のマルセル・カルネも、脚本家のジャック・プレヴェールも、心底ナチスドイツを憎んではいましたが、ナチスに占領されたフランスから決して逃げようとしなかったことです。ナチスドイツが覇権を握ってからというもの、フランスから、多くの文化人が国外逃亡しました。映画監督のルネ・クレールや、ジュリアン・デュヴィヴィエ、ジャン・ルノワールらは、早々にアメリカに亡命しています。しかし、マルセル・カルネとジャック・プレヴェールは、フランスを捨てることを潔しとせず、とにかくフランスでフランス映画を作ることに邁進したのです。

「天井桟敷の人々」には、無論暗い戦争の影が落ちてはいますが、その内容は、戦争とは関係の無い、19世紀の話です。恐らく、ナチスドイツに正面から反抗するような映画は作れなかったのだろうと思います。しかし、そういった限られた表現活動の中であっても、歴史に残るこういった映画が作られるのです。

「天井桟敷の人々」の本質的な内容は、1人の同じ女性を愛してしまった3人の男たちの恋愛譚です。歳月によって古びることのない、人類の永遠のテーマである男女の関係やすれちがい、そして愛の喜びや苦悩についての切ない物語となっています。

「天井桟敷の人々」の映画音楽は、「枯葉」でジャック・プレヴェールとコンビだったジョゼフ・コズマが担当しました。
そして、主演のパントマイム俳優バチストは、ジャック・プレヴェールと関係の深かったジャン・ルイ・バローが演じています。相手役の女性ギャランスには、アルレッティというベテラン女優が配されました。2人とも見た目は美男美女ではありませんが、静かな中に燃えるような情熱を秘めた大人の恋を濃密に演じていて、素晴らしい演技力です。

この話、もう少し続きます。






天井桟敷の人々dvdジャケット







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ジャック・プレヴェール その②

ジャック・プレヴェール②です。


前回の詩は、ジャック・プレヴェールが45歳にして初めて出版した詩集・断想集「言葉たち」(Paroles)の中の1篇です。
この美しい詩を解説するのも野暮の極みですが、お許しください。


この詩には、1杯のカフェオレを飲み、1本の煙草を吸い終わって、部屋から出ていく男、何も言わず、彼女の顔を見ることもなく、彼は雨の中へ立ち去っていきます。それを止めることもなく、ただ見送った後、独りになったことを確かめてから、別れの悲しみに耐え切れず、手に顔を伏せて忍び泣く女性の姿が描かれています。


イメージからすれば、カフェオレは、家族団らんのにぎやかな朝食や、お金の無い同棲生活を営む若い2人のシンプルな朝餉にこそふさわしい、などと私は考えてしまいますが、ここでは、2人の、疲れきった生活の終わりの象徴として、1杯のカフェオレが描写されているのです。

日本であれば冷めた紅茶を飲みほすところですが、これがフランスのカフェオレの風景なのです。
自分のコーヒーカップを、女性の手に触れさせることもなく、男は自分ひとりでコーヒーを注ぎ、ミルクを注ぎ、砂糖を入れてかきまぜています。

彼の眼の前には、昨日まで恋人だった女性がいるのですが、この朝、既にそこには女性はいないものとして、彼はふるまっています。1晩だけ泊まった安宿をチェックアウトして出ていくように、カフェオレを飲み、煙草を吸って、そして一言も話さず、彼は出ていくのです。
こんな哀しいカフェオレは、飲みたくありません。恐らく、まったく味はしないでしょう。


誰にも恋が訪れます。そして、誰にも恋の終わりがやってきます。
男女の恋愛には、いつか終わりが来る、ということを、ジャック・プレヴェールの詩は常に言っているように感じられます。

そして、うんと後になって、振り返って、あの頃、我々2人は、もしくは少なくとも自分だけは、あの場で、あの部屋で、幸せだったのだ、と静かに思い出すようになるのかもしれません。



イブ・モンタンや、ジュリエット・グレコが歌う、シャンソンの名曲としてお馴染みの「枯葉」(Les Feuilles mortes、1945年)は、ジョゼフ・コズマの曲に、ジャック・プレヴェールが歌詞をつけた楽曲です。かつて愛し合った2人が、別れの後、長い時を経て、再び出会った時、2人は風に吹かれる枯葉のようだった、恋人たちが一緒に歩いてつけた砂の上の足跡も、時と共に消えてしまうものなのだ、という、男女の関係を描いた歌詞が切ない名曲です。ご紹介した「朝食」は、「枯葉」の2人の前史とも言うべき、別れの風景なのかもしれません。


次回に続きます。


75パリ夜景












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